先日、駅の券売機で新幹線のチケットを買ったときの話です。後ろには列ができている
状態で私の番。。。普段ならなんてことのない作業ですが、その時はどこで間違ったか
目当ての画面にたどり着けず。人が待っていると思うと妙に焦ってしまい、散々もたもたした
上で一度取り消してやり直し、普段の2倍以上の時間がかかってやっと購入することができました。
今日はそんな人間の特性を踏まえて、基板工場のボトルネックの在り方について書いてみたいと
思います。ボトルネック管理というと真っ先に思い浮かぶのが以下の「ザ・ゴール」という本です。
製造業のバイブルと言われることもある本書は、小説調で読みやすく、漫画化された子でも話題に
なりました。本書は傾いた工場を立て直すストーリーで、特に工程全体のスループットを上げるための
ボトルネック管理の重要性を説いています。
本書の目的は生産性の工場であり、今回の記事の目的は品質面のお話しになるので、厳密に言うと
趣旨は異なるのですが、「ボトルネックとの向き合い方が生命線」という部分に共通したところが
あったので話のはじめにご紹介させていただきました。
例えば、以下のような工程があったとします。工程は1~4に分かれています。見てわかる通り、
赤で示されている「工程3」がボトルネックです。その背景に薄い水色で示したものがスループットです。
スループットはボトルネック以上にはなりません。ですから、工程1、2、4について改善活動をするよりも、
工程3を徹底的にコントロールすることによって全体のスループットを向上させようというのが、「ザ・ゴール」
の大きなテーマです。
さて、もちろん基板工場であってもボトルネックは存在します。本日の本題はここからなのですが、
特に基板工場においては、人が基板をチェックする工程がボトルネックになるのは大変危険です。基板工場では、
AOIやAVIと言った設備の工程の後には人の目によるチェックが入ります。この工程をボトルネックにしては
ならないということです。工程全体のスループットを上げるためにはボトルネック工程に集中的にてこを入れるのが
一番効率的です。要は一番圧力がかかるわけです。設備がボトルネックであったとしても、ボトルネックになっている
ということ自体が工程に与える影響は限定的です。但し人は違います。冒頭の券売機の例を思い出して下さい。
人は焦ります。焦ることで判断力が下がります。もちろん、人の手を全く介さない工程というのはほとんど
ありませんから、ボトルネック工程となった工程にヒューマンエラーのリスクは高まります。しかし、上記に
あげたような工程は、人の判断力と集中力がコアになる工程です。ここをボトルネックにすると、焦った検査員が
不良を見逃すリスクを高めることに他なりません。人の方が機械よりも流動的な側面がありますから、ともすれば
人の工程はボトルネックになりがちです。ですから、各工程の能力をコントロールしたり、多能工化を推進して
検査工程がボトルネックにならないようにする必要があるわけです。基板にはどうしても不良はつきものです。
ですから、不良を作らない取り組みと同じように発生してしまった不良を外に出さない仕組みが極めて重要で、
この仕組みを機能させるコツの一つが、人為工程のボトルネック回避と言うわけです。普段は不良を出していない
工場からある時を境にトラブルが起き始めたなんてことがあったときには背景にボトルネック理論があるかもしれません。
ということを説明すれば理屈はシンプルですから、問題は簡単な気がしますが実際はそんなに単純な話では
ありません。「ザ・ゴール」で提唱されるボトルネック集中コントロール(TOC=制約理論と呼ばれることが
多いです。)は以下の大きなサイクルを経るよう提唱されています。
見て頂いてわかるように、TOCではボトルネックの処理能力を上げ、再度制約工程の検証をするというサイクルを
経ます。つまり、ボトルネック工程は「移動するもの」だということです。本来のTOCの前提に立てば、
次のボトルネック工程が見つかればそこに対して同様のアプローチをすることになります。しかし、基板工場では注意が必要です。
絶対にボトルネックにしてはいけない工程がありますから、「人為的なチェック工程が次のボトルネックにならない」ように
注意が必要です。検査工程がボトルネックになったとたん、不良が出るリスクを一気に高めることになるわけですので。
というわけで、今回はTOCのご紹介と基板工場への適用例をテーマにいたしました。ザ・ゴールが世に出て来年で35年。
問題点も一部で指摘されていますが、それでも合理的な理論だと個人的には考えております。本質はシンプルで美しいもので
あってほしいですね。
ちなみにこの「ザ・ゴール」ですが、登場人物は少し変わったりするもののシリーズ化されていて本屋さんでもいろんな種類の
ものが並んでいます。起承転結が明快、人間模様もしっかりと書いて、ラストは分かりやすく痛快といった構成のものばかりなので、
娯楽としても楽しめますのでお勧めです。